バイオテクノロジー

NBRCニュース 第41号

◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆
                      NBRCニュース No. 41(2016.10.3)
◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆
 
 NBRCニュース第41号をお届けします。今号は微生物あれこれ、バイテク分析法の2つの
連載をお届けします。最後までお読みいただければ幸いです。
================================================================================
 内容
================================================================================
 1.平成28年度NBRC微生物実験講習会のご案内
 2.新たにご利用可能となった微生物株
 3.微生物あれこれ(37)小・中学校の理科実験に使える微生物
 4.バイテク分析法(2)新型シーケンサーを用いた細菌叢解析
 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
================================================================================
 1.平成28年度NBRC微生物実験講習会のご案内
================================================================================
 微生物アンプルの復元・培養や微生物の保存方法等に関する講習会を開催します。日本
工業規格(JIS規格)や薬局方に用いられる細菌および糸状菌を用いて、菌の取り扱いに
関する実習を行います。皆様のご参加をお待ちしております。
 
 日時:1. 平成28年11月17日(木)10:30~17:30
    2. 平成28年11月18日(金)10:30~17:30
    両日程とも同じ内容です。
 場所:製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター
    千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
 講習内容:微生物アンプルの復元や凍結保存法など(座学および実習)
 受講資格:NBRC株のユーザーあるいは今後使用する予定があり、大学等で微生物の
      取り扱い経験がある方
 募集人数:各回10名(最低履行人数は5名)
      定員になり次第、締め切らせていただきます。
 参加費用:8,100円(税込み)
 申込方法:NBRCのホームページに掲載している申込書をダウンロードしていただき、
      必要事項をご記入のうえ、faxあるいはe-mailでお申し込みください。
      https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/seminar.html
 募集開始:平成28年10月3日(月)

================================================================================
 2.新たにご利用可能となった微生物株
================================================================================
◆ NBRC株
 酵母 12株、糸状菌 3株、細菌 21株、微細藻類 4株が新たにご利用可能となりました。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html

◆ RD株
 スクリーニング株(RD株)として、奄美大島の土壌や朽木などから分離した放線菌・細
菌15株を追加いたしました。是非、リストをご覧ください。

【詳細】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/new_rd.html
【RD株リスト】 https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/rd/available_rd_list.html

================================================================================ 
 3.微生物あれこれ(37)
   小・中学校の理科実験に使える微生物    (伴さやか、関口弘志、村松由貴)
================================================================================ 
 ここ数年、教育現場に生きた微生物を取り入れる機会が増えているように思われます。
学校の先生からどんな微生物を使えば良いか等、お問い合わせをいただくこともありま
す。そこで今回は、我々がどんな事に注意して微生物を選んでいるか、例を挙げて簡単に
ご紹介します。

1. 微生物の危険性を考慮する
 まず注意するのが、微生物のヒトに対する危険性です。「WHO実験室バイオセーフティ
指針」で最も危険性の低いとされるバイオセーフティレベル(BSL)1の微生物は、「BSL
2~4に属さず、健常者への病原性が無いか低いもの」とされています。NBRCでは毎年夏休
みの時期に、小学生から高校生を対象とした微生物実験教室を開催しています。こういっ
た実験教室で用いる微生物は、開放系の実験室での使用が可能なBSL 1であることに加え
て、大人と比べて免疫が未発達である小児に対しては、BSL 1の中でも特に危険性の低い
微生物が求められます。これには、私達が普段から食品として口にしている発酵食品用の
微生物が、経験として危険ではないことが分かっているため好適です。
 危険性が低いとされるBSL 1の微生物でも原則として実験室で扱い、開始と終了時の手
洗いは必須です。また菌の胞子が暴露しないような操作を心がけ、作業者を護るマスクや
白衣、手袋を着けて取り扱うことが推奨されます。

2. 目的に応じた微生物を選ぶ
【発酵微生物:大きさを比較する】
 細菌、酵母、糸状菌の代表的な以下の3種類を観察することで、「微生物」という名称
が肉眼で見えない生物全般を指していて、種類によって形や大きさが異なることを確認で
きます。
◆納豆菌(細菌)
 3種類のなかでは最もサイズが小さく形も単純で、光学顕微鏡の400倍ではかろうじて細
長い細胞(桿状細胞)が確認できますが、ぼやけたようにしか見えず正確な形の観察はで
きません。1000倍で観察するのが理想的で、位相差顕微鏡を使えば胞子の観察が容易で
す。培養すると独特の臭いがします。
◆パン酵母
 細菌や糸状菌ではみられない、出芽による分裂で増える様子が観察できます。大きな細
胞の横合いから小さく出芽して、ぽこっと分裂しかけている細胞を見つけることがポイン
トです。細菌である納豆菌との比較から、真核生物と原核生物の違いの説明に使えます。
培養するとパンかお酒の匂いがします。
◆麹菌(糸状菌)
 細胞サイズが大きいため低倍率(40~400倍)の光学顕微鏡で観察します。糸状の菌
糸、菌糸から伸びる柄、柄の先端にできる胞子が見え、単細胞の納豆菌や酵母とは増え方
が異なることが分かります。菌類は微生物として扱われますが、肉眼でも見えるレベルの
シイタケやナメコなどのキノコも菌糸が集合したもので、同じ仲間だという説明に発展さ
せることもできます。
顕微鏡写真
   光学顕微鏡での観察像。左から納豆菌、酵母、麹菌(40倍の対物レンズを使用)

【藻類:運動性を観察する】
 藻類は光合成を行う微生物です。細菌や酵母と比較すると細胞サイズが大きく観察が容
易であることに加え、様々な運動性を観察することが出来ます。
◆ボルボックス
 多数の細胞が集合体を形成する微細藻類で、細胞群体と呼ばれます。ボルボックスは
個々の細胞の鞭毛運動により走光性を示します。顕微鏡では個々の細胞を観察することが
可能ですし、群体は肉眼でも見えますので光の方向に進む群体を観察することが可能で
す。
◆ユーグレナ(ミドリムシ)
 近年サプリメントなどで有名です。特徴的な運動性として、ユーグレナ運動(すじりも
じり運動)が挙げられます。これは、ユーグレナの細胞表面がずれることによって、細胞
がねじれるように伸縮運動を行います。

この動画を見るためには<a href="http://get.adobe.com/flashplayer/" _cke_saved_href="http://get.adobe.com/flashplayer/" target="_blank">Flashのプラグイン</a>が必要です
          ユーグレナ運動(すじりもじり運動)の動画
   (上の動画をご覧いただくには、プラグインのダウンロードが必要です)

【微生物の色を観察する】
◆紅麹菌
 沖縄の伝統食品“豆腐よう”の発酵に用いられる麹菌の仲間で赤色の色素を作ります。
これはベニコウジ色素と呼ばれ、天然由来の食品用着色料として使われます。台湾、中国
など東南アジアではお酒の発酵に使われることもあります。
◆発光細菌
 イカやホタテを海水の中にしばらく入れて、暗い部屋で観察すると体表面が青く光るこ
とがあります。これは、フォトバクテリウム属という細菌が発光するためです。発光する
理由はまだわかっていません。

3. 準備や観察時の注意点
 それぞれの微生物は生育速度が異なるので、同じ日に観察するには時間差を設けて培養
を開始しなければなりません。観察に適した状態に生育を揃えるために、納豆菌は1日
前、パン酵母は2日前、麹菌は7日前に培養を始めた方が良いです。L-乾燥アンプルや凍結
標品から復元培養する際には更に長い日数がかかったり、細胞に元気がない場合もあるの
で、一度復元培養した後に植え継ぐことがおすすめです。
 顕微鏡観察には、培養したプレートからスライドグラスへ爪楊枝を使って移し、水を1
滴垂らしてカバーグラスを被せます。小学生による観察ではカバーグラスが一番の危険物
だと思いますので、割れにくい樹脂製のものを使うと良いでしょう。

================================================================================
 4.バイテク分析法(2)
   新型シーケンサーを用いた細菌叢解析         (三浦隆匡、山副敦司)
================================================================================
 環境中に生息する微生物の多くは難培養性であり、培養法では全微生物のわずか1~10
%未満しか分離できていないことが示唆されています(1)。そこで、近年では細菌叢の解
析法として培養に依存しない分子生物学的な手法が一般的になっています。特に新型シー
ケンサーの登場以降、環境からDNAを抽出しPCR法で16S rRNA遺伝子を増幅した後、PCR産
物の配列を網羅的に決定するアンプリコンシーケンス法(メタ16S解析)が取り入れられ
るようになり、培養法に比べ高精度に細菌叢を評価することが可能になりました。
 新型シーケンサーを用いたメタ16S解析では、PCRプライマーの一端にサンプルごとに異
なる「バーコード」配列を付加し、すべてのサンプルをまとめて解析を行います。シーケ
ンスリードを「バーコード」配列に従い各サンプルにふるい分けることで、一度の解析で
多数のサンプルについて解析できます。また、得られた大量のデータ(数万配列以上/サ
ンプル)の処理を効率化するために、OTU(Operational Taxonomic Unit)にグルーピン
グを行います。OTUとは、配列間の類似性が一定以上(多くは97%以上)である配列群を
一つの菌種のように扱うための操作上の分類単位であり、OTUの数は細菌叢を構成する菌
種の数を表し、同一のOTUに属する配列の数はその種の相対的な存在数を表すと考えられ
ています。各OTUに属する配列から一つの配列を選択し、データベースを利用したBLAST検
索により、各OTUの属種名の同定を効率的に行うことができます。同定された属種名にも
とづき、論文等の既知情報から生物学的な情報(病原性、有用機能等)を調査すること
で、検出された細菌種の環境中での役割を推定することが可能です。また、各OTUの同定
結果に基づいて構成菌種の組成比を算出したり、Unifrac解析(2)によるサンプル間での菌
叢の類似性を求めることで、菌叢構造の比較解析も可能です。なお、これら一連の解析は
QIIMEやmothur等のフリーウェアで行うことができます(3、4)。
 NBRCでは、塩素化エチレン類のバイオレメディエーションにおける有機資材(栄養剤)
の添加による浄化効果の評価にメタ16S解析を利用しました(5)。実汚染サイトよりサンプ
リングした土壌および地下水に3種類の有機資材(資材A、B、C)を添加したバッチ培養に
よる分解試験を行い、経時的な塩素化エチレン化合物の濃度測定とメタ16S解析を実施し
ました。その結果、塩素化エチレンの完全な脱塩素化が進んだ試験区(資材A、B)と中間
産物であるシス-1,2-ジクロロエチレン(cDCE)の蓄積が見られた試験区(資材Cおよび無
添加区)で菌叢に明確な違いが確認されました。資材AおよびBの試験区では、cDCEの脱塩
素菌であるChloroflexi門のDehalococcoides属と、その生育に必要な炭素源やエネルギー
源の生成に関与すると考えられるBacteroidetes門やSpirochaetes門の増加を確認しまし
た。以上のことから、添加する有機資材の種類により塩素化エチレンの浄化効果が異なる
こと、その評価にメタ16S解析による菌叢評価が有効であることが示されました。
主座標解析(PCoA解析)の図

構成菌種の組成比
【文献等】
 (1) Amann, R.I., et al. (1995). Phylogenetic identification and in situ 
     detection of individual microbial cells without cultivation. Microbiol. 
     Rev., 59(1), 143-169. 
 (2) Hamady, M., et al. (2010). Fast UniFrac: facilitating high-throughput 
     phylogenetic analyses of microbial communities including analysis of 
     pyrosequencing and PhyloChip data. ISME J., 4(1), 17–27.
 (3) Caporaso, J.G., et al. (2010). QIIME allows analysis of high-throughput 
     community sequencing data. Nat. Methods, 7, 335-336.
 (4) https://www.mothur.org/
 (5) Miura, T., et al. (2015). The Impact of Injections of Different Nutrients 
     on the Bacterial Community and Its Dechlorination Activity in 
     Chloroethene-Contaminated Groundwater. Microbes Environ., 30(2), 164-171.

================================================================================
 5.NITEバイオテクノロジーセンター展示のお知らせ
================================================================================
 以下に出展いたします。ブースではお立ち寄りいただいた皆様からのご相談やご質問に
もお答えします。是非お越しください。

BioJapan2016
 日程:平成28年10月12日(水)~14日(金)
 場所:パシフィコ横浜 ブース番号:A-16
    http://www.ics-expo.jp/biojapan/main/

 JBAオープンイノベーションゾーン(ブース番号:D-12)にてプレゼンテーション
「液体窒素凍結保存システムによる培養細胞保管の開始 ~NBRCバックアップ保管サービ
ス~」も行います。是非お越しください。

================================================================================
 編集後記
================================================================================
 今年の秋は関東地方に何度も台風が上陸しています。気象庁のホームページで調べてみ
たところ、9月23日現在の日本へ上陸した台風は6つで、過去10年間で一番多くなっていま
す。ちょうど出張の予定が入っている日に台風が上陸しそうなことが多く、出張を延期す
るか、決行するか天気予報をにらみながら頭を悩ませています。九州地方や東北地方、北
海道では大きな被害が出ているというニュースも聞きます。早い復旧と、もう今年は台風
が来ないといいなと願うばかりです。(NI)

◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆
 ・画像付きのバックナンバーを以下のサイトに掲載しております。受信アドレス変更、
  受信停止も以下のサイトからお手続きいただけます。
  https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html
 ・NBRCニュースは配信登録いただいたメールアドレスにお送りしております。
  万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、下記のアドレスにご連絡く
  ださい。
 ・ご質問、転載のご要望など、NBRCニュースについてのお問い合わせは、下記のアドレ
  スにご連絡ください。
 ・掲載内容は予告なく変更することがございます。掲載内容を許可なく複製・転載され
  ることを禁止します。
 ・偶数月の1日(休日の場合はその前後)に配信します。第42号は2016年12月1日に配
  信予定です。

  編集・発行
    独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジーセンター
    NBRCニュース編集局([email protected])
◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆

FLASHファイルをご覧いただくためには、Adobe Flash Player(無償)が必要です。Adobe Flash PlayerはダウンロードページGet ADOBE Flash Playerよりダウンロードできます。

お問い合わせ

独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター  生物資源利用促進課
(お問い合わせはできる限りお問い合わせフォームにてお願いします)
TEL:0438-20-5763
住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 地図
お問い合わせフォームへ