◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆ NBRCニュース No. 5(2010.10.1) ◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆ NBRCニュース第5号をお届けします。10月18~29日に名古屋において生物多 様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。今号では、COP10に関係 するNITEの海外事業をご紹介します。連載は「微生物あれこれ(第2回)」と 「微生物の保存法(第3回)」です。最後までお読みいただければ幸いです。 (等幅フォントでご覧ください) ====================================================================== 内容 ====================================================================== 1.アジア微生物資源の保全と持続可能な利用のための国際シンポジウム のご案内 2.新たにご利用可能となった微生物株(2010年7月31日~9月27日) 3.微生物あれこれ(2) キクイムシ酵母 4.微生物の保存法(3) 放線菌の凍結保存法 5.生物多様性条約とNITEが取り組む海外生物遺伝資源へのアクセス 6.ゲノム情報データベースDOGANのリニューアルについて 7.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ ====================================================================== 1.アジア微生物資源の保全と持続可能な利用のための国際シンポジウム のご案内 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/information/101013.html ====================================================================== アジアの微生物資源に関する国際シンポジウムを企画いたしました。アジア 15ヶ国から33名の研究者や政府関係者、そしてアジア各国と共同研究を行って 成果をあげてこられた国内研究者の方々にご出席いただき、各国の微生物資源 を用いた研究の最前線と資源管理に関する講演や発表を行っていただきます。 皆様のご参加をお待ちしております。 日程:平成22年10月13日(水)~ 14日(木) 場所:コクヨホール(品川駅港南口徒歩3分) http://www.kokuyo.co.jp/showroom/hall/about/ 参加費:無料(懇親会は有料) プログラム:Microbial diversity in Asia Bioproduction from Asian Microbial Resources Potential of Asian Microbial Resources for Bioindustry Microbial Research Network パネルディスカッション ポスター発表 各課題における演題の詳細などはホームページをご覧下さい。 申込み方法:以下の事項を記載し、e-mailで[email protected]にお申 し込みください。 お名前、ご所属、e-mailアドレス 参加日(両日とも/13日のみ/14日のみ) 懇親会の参加/不参加 ====================================================================== 2.新たにご利用可能となった微生物株(2010年7月31日~9月27日) 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html ====================================================================== 糸状菌 50株、バクテリア 70株、微生物ゲノムDNA 1種類を新たに公開しま した。細菌はこれまでに保有していなかった66種の基準株(タイプ株)を公開 しています。 NBRCで公開している微生物株の学名は、原則として寄託者の情報に基づいて おります。しかしながら、その後の分類体系の更新や、NBRCでの品質管理試験 による再同定結果から学名を変更すべきと判断された場合は、菌株の学名を変 更しております。このたび、菌株学名変更の情報を以下のホームページで公開 することとしました(https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/change/modification.html)。学 名を変更した理由などもあわせて掲載しておりますので、ご利用いただければ 幸いです。 ====================================================================== 3.微生物あれこれ(2) キクイムシ酵母 (二宮真也) ====================================================================== 自然界には花や果物だけではなく、昆虫と関わりながら生きている酵母もい ます。今回は小さな昆虫に培養されている酵母について紹介します。 樹木に穴を掘るキクイムシと呼ばれる体長数ミリの小さな昆虫には、巣であ る坑道で菌を培養し、それを餌としている養菌性キクイムシというものがいま す。養菌性キクイムシが培養するこの菌は「アンブロシア菌」と呼ばれ、今か ら170年以上も前の1836年に、Schmidbergerがキクイムシの幼虫が食べている 正体不明の白い物(後に菌であることが判明)を見つけ、ギリシャ神話におい て「神の食べ物」といった意味も持つ「アンブロシア」と名付けたことに由来 しています。驚くことに、アンブロシア菌はキクイムシ自身のマイカンギア( 菌嚢)と呼ばれる袋のような器官に貯蔵され、キクイムシによって運ばれ、新 しい巣に植え付けられているのです。 アンブロシア菌としては糸状菌が有名で、その生態学や生理学的研究からキ クイムシの幼虫が生育するための栄養源になっていることがわかっています。 一方、酵母については坑道から高頻度で分離されるという報告があるものの、 キクイムシとの関係については不明です。そこで、キクイムシと共生菌の生態 学を研究されている名古屋大学の梶村恒先生と一緒に、8種類の養菌性キクイ ムシに注目して、キクイムシと酵母の関係を調べてみました。キクイムシの坑 道やマイカンギアから296株の酵母を分離し、26S rRNA遺伝子D1/D2領域の塩基 配列を調べた結果、それらは9属27種に分類され、その半数以上が未記載種で ありました。日本に分布するキクイムシの種類が約300種ですので、まだまだ 新しい酵母が分離できるのではと期待しています。また、キクイムシの種類や 地域が異なるにも関わらず、同じ新種の酵母が分離されたことから、キクイム シと酵母には何らかの関係があるのではと考えています。新種を含むこれらの 酵母は、NBRCより順次公開していく予定です。この小さな昆虫が培養した「神 の食べ物」が皆様に利用されることを願っております。
タイコンキクイムシ成虫 右:雄、左:雌 |
タイコンキクイムシ幼虫と坑道 白いものがアンブロシア菌 |
(名古屋大学 梶村先生 提供) |
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4.微生物の保存法(3)
放線菌の凍結保存法 (田村朋彦)
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放線菌は、グラム陽性でDNAのG+C含量が高いという特徴がある細菌の1つの
グループに対する総称です。Streptomyces属などの菌糸を作るものと、結核菌
(Mycobacterium)、グルタミン酸生産菌(Corynebacterium glutamicum)や
抗菌性試験指定菌(Micrococcus luteus)などの球菌や短桿菌で菌糸を作らな
いものがあり、それぞれの保存方法は異なります。菌糸を作らない種類は通常
の細菌とまったく同じ方法で保存できますので、NBRCニュース創刊号の「一般
的な細菌の凍結保存法」をご参照ください。菌糸を形成する放線菌の保存は基
本的には糸状菌と同様です。平板培養物から凍結保存品を作製する場合は、NB
RCニュース第3号「一般的な糸状菌の凍結保存法」をご参照ください。ここで
は、菌糸状となる放線菌を斜面培地に培養した時の凍結保存法と、保存や復元
におけるコツを紹介します。
◆ 凍結保存法
(1) 斜面培地(試験管サイズ 直径16~18 mm、長さ約16 cm)に培養したコロ
ニーを、ループを使って寒天ごと切り出します。胞子をループで集められ
る場合は、コロニーを切り出す必要はなく、胞子だけを集めます。
(2) 保護培地(10%グリセロール水溶液1 ml)を入れた凍結保存用チューブ
(容量2 ml)に、切り取った寒天ブロックを適当な数(2個以上)入れま
す。胞子だけを集めた場合は、凍結保存用チューブ内の保護培地に胞子を
懸濁します。
(3) チューブを5℃前後の環境下に30分~一昼夜ほど置いた後、ディープフリ
ーザー(-80℃)または液体窒素タンクに入れて凍結します。
◆ 凍結保存品の復元法
(1) 室温で融解します。
(2) チューブ内の寒天ブロックを取り出し、斜面や平板培地に接種します。こ
のとき菌体ディスクをくずして培地にこすりつけ、新しい培地になるべく
多くの菌体を接触させるようにします。胞子を懸濁した標品については、
胞子懸濁液を斜面や平板培地に接種します。どちらの場合も、念のため、
液体培地にも接種します。
凍結標品からの復元では、生育の立ち上がりが遅くなり、通常より長期間の
培養が必要となることがあります。固体培地での一般的な培養期間は、
Streptomyces属や至適培養温度が45~55℃の株で3日~1週間、他の菌糸状の放
線菌では1~2週間です。
放線菌は菌糸だけでも凍結保存できますが、胞子を保存すれば生残性が格段
に向上します。このため、胞子を形成する培地を使って培養することが望まし
いのですが、逆にこれらの培地では十分な菌体量が得られないこともよくあり
ます。複数種類の培地を使って培養し、生育と胞子形成のバランスが良い培養
物を保存してください。また、植継ぎを行うと、急激に胞子形成能が失われて
いくことがありますので、菌株を分離した際は、純化後なるべく早く保存する
ことをお勧めいたします。
菌糸を作る放線菌では、菌糸が寒天にもぐり込んで生育するため、菌体を得
るには寒天ごと菌体を切り出す必要があります。寒天ブロックを切り出すため
のループは、力をかけても曲がらないように、通常より太目のニクロム線(径
0.8 mm程度)を使用します。さらに、このループをヤスリがけして、寒天を切
り取りやすくすると便利です(薄くしすぎると強度がなくなりますので、角度
をつける程度で十分です)。また、L字型にしたもの、平板培地への接種用に
通常使用されているやわらかめのループなどを用意しておくと、様々な菌に使
い分けすることができます。
下:太め(径0.8mm)先端をヤスリがけ |
いろいろな放線菌 |
====================================================================== 5.生物多様性条約とNITEが取り組む海外生物遺伝資源へのアクセス 【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/global/asia/index.html (塩谷 俊、乙黒美彩、鶴海泰久) ======================================================================
1993年12月に生物多様性条約(Convention on Biological Diversity:CBD) が発効しました。この条約は、(1) 生物多様性の保全、(2) 生物資源の持続可 能な利用、(3) 遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を目的と しています。さらに条約で遺伝資源を保有する国の主権的権利が認められたた め、資源提供国の事前同意を得ていない遺伝資源の利用や国外への持ち出しは 制限されるようになりました。海外の微生物を利用する場合も生物多様性条約 の原則の遵守が求められ、これに反した行為(無理解や認識不足を含む)は、 のちにバイオパイラシーや利益配分などに関する様々な問題を生じることが懸 念されます。 10月18日から名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10、通称:国 連地球生きもの会議)が開催されます。新聞などの各種報道機関が伝えている ように、大きな議題の一つは「遺伝資源へのアクセスとその利用から生じる利 益の公正かつ衡平な配分(Access and Benefit Sharing:ABS)」です。NITE は2003年のインドネシアを皮切りに、ベトナム、モンゴル、タイ、ブルネイと 協力関係を構築して微生物資源の共同探索を実施していますが、アクセスと利 益配分については2002年のCOP6で採択されたABSに関するボン・ガイドライン に基づく合意を交わしております。本稿では、CBDに関係するNITEの海外業務 の取り組みをご紹介します。
NITEにおける技術指導の様子
今年1月、日本政府は「ポスト2010年目標日本提案」を発表しました。 COP10において、2010年以降の条約戦略計画に関する新しい目標設定が話し合 われるためです。日本は2020年までの短期の目標と2050年までの中長期の目標 を提案し、それらの達成のために生態系の保全からABSの実施まで、さまざま な個別目標を掲げています。NITEが行っている海外事業は、「生物多様性の 保全と持続可能な利用を達成するための資金的、人的、科学的、技術的な能力 の向上」と「伝統的知識の保護とABSの取組を促進するための体制整備」とい う2つの個別目標に貢献するよう努めています。具体的には、アジア諸国の研 究者と微生物の分類学や生態学に関する共同研究を実施し、その過程で相手国 が自ら微生物資源を分離、同定、保存できるように技術指導を行っています。 さらに、独自の技術提供や得られた研究成果の共有、共著論文の発表なども実 施しています。すなわち、アジア諸国との協力関係は強い信頼を土台に築かれ ており、双方の誠実な対応によって、海外微生物遺伝資源へのアクセスが実現 されるとともに、相手国には技術移転や能力構築といった非金銭的利益配分を もたらしています。 このようにNITEが探索収集した海外の生物遺伝資源は、生物多様性条約の原 則とボン・ガイドラインの主旨にのっとっていますので、安心してご利用いた だくことができます。NITEは、今後も資源提供国との協力関係を維持し、日本 政府の掲げる目標の実現とともに、生物遺伝資源ユーザーの皆様のお役に立て るよう努力していきます。 ====================================================================== 6.ゲノム情報データベースDOGANのリニューアルについて 【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top (市川夏子) ====================================================================== DOGAN(Database Of the Genomes Analyzed at NITE)は、NITEでゲノム解 析した微生物の塩基配列、遺伝子地図、遺伝子の機能、プロテオーム解析デー タなどを提供しているデータベースです。1998年に嫌気性超好熱古細菌のゲノ ム配列を公開したのを皮切りに、黄色ブドウ球菌や麹菌など、産業に有用な微 生物や系統的に基準となる微生物を中心とした20菌株のゲノムを公開していま す。このたび、ユーザーの皆様がより利用しやすいように、新しい機能や情報 を追加したDOGANを8月3日にリニューアル公開しましたのでご紹介します。 ◆ ゲノムマップの改良 ゲノムマップでは、ゲノム上に推測された遺伝子の情報や並びなどについて 閲覧することができます。新しいDOGANでは非同期通信技術Ajaxの採用により、 待ち時間無く軽快にゲノム情報を閲覧できるようになりました。また詳細な遺 伝子情報や、プロテオーム解析により同定されたペプチド断片、NBRCで提供し ているクローンの情報もポップアップでマップ上に表示されるようになりまし た。 ◆ アノテーション情報の改良 DOGANで公開している遺伝子の情報は、NITEのアノテーターと共同研究者の 方々により一つ一つ付けられたものです。NITEでは遺伝子情報の根拠となる相 同遺伝子の情報や遺伝子の活性残基、修飾残基についての情報も付けて公開し ています。今回のリニューアルに伴い、アノテーターの付けたコメントやパス ウェイ情報も表示されるようになりました。 今後も解析中の25菌株について順次公開していきます。DOGANを是非ご利用 ください。 デモンストレーションを表示する (ご覧いただくにはプラグインのダウンロードが必要です。) ====================================================================== 7.NITEバイオテクノロジー本部の出展のお知らせ ====================================================================== NITEバイオテクノロジー本部は、以下の展示会に出展いたします。皆様のお 越しを心よりお待ちいたしております。 生物多様性交流フェア(COP10併催屋外展示会) 日程:2010年10月11日(月)~29日(金) 場所:白鳥公園、熱田神宮公園(地下鉄名港線日比野駅徒歩5分) http://www.cop10.jp/fair/index.html 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)サイドイベント 日程:2010年10月19日(火) 午後1時15分~ 場所:名古屋国際会議場 232室(地下鉄名港線日比野駅徒歩5分) 申込み方法:サイドイベントに参加するには事前登録が必要です。 詳細は http://www.cop10.go.jp/ent/ を御覧ください。 第62回日本生物工学会大会 日程:2010年10月27日(水)~29日(金) 場所:ワールドコンベンションセンターサミット フェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎空港から車20分) http://www.sbj.or.jp/2010/ 第31回日本食品微生物学会学術総会 日程:2010年11月11日(木)~12日(金) 場所:ピアザ淡海 滋賀県立県民交流センター(京阪電車石場駅徒歩5分) http://www.piazza-omi.jp/access/index.html 第33回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会 合同大会(BMB2010) 特別企画NBRP実物つきパネル展示 日程:2010年12月7日(火)~10日(金) 場所:神戸コンベンションセンター(ポートライナー市民広場駅すぐ) https://www.mbsj.jp/meetings/annual/index.html ====================================================================== 編集後記 ====================================================================== 今年の夏の思い出と言えば猛暑です。西日が当たる我が家のリビングでは室 温が40℃に達し、飼育している熱帯魚にとっても熾烈な環境だったようです。 海水温の上昇で今年はサンマが不漁だそうですが、この暑さは環境中の微生物 叢にも影響するのだろうかと思いながら、本号発行を迎えました。(HS) ◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆ ・このメールマガジンは配信登録いただいたメールアドレスにお送りしており ます。万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、以下のアド レスにご連絡ください([email protected])。 ・受信を中止されたい場合は、以下のアドレスに空メールをお送りください ([email protected])。 ・メールマガジンに関するご質問、転載のご要望、配信先メールアドレスの変 更など、メールマガジンについてのお問い合わせは、以下のアドレスにご連 絡ください([email protected])。 ・当メールの送信アドレスは送信専用となっており、このメールへの返信には お応えできませんのでご了承ください。掲載内容は予告なく変更することが ございます。掲載内容を許可なく複製・転載されることを禁止します。 ・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)に発行します。第6号は12月1日に発 行予定です。 ・ホームページ(https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html)にて、NBRCニ ュースのバックナンバーを公開しています。こちらでは解説写真なども掲載 しております。 編集・発行 独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)メールマガジン編集局 ◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆