◆◇◆ NBRCニュース No. 3(2010.6.1)◆◇◆
NBRCニュース第3号をお届けします。今号の連載は、「微生物の保存法」と
「NITEが解析した微生物ゲノム」の第2回です。また、NBRCで行っている菌株
の品質管理方法を紹介いたします。最後までお読みいただければ幸いです。
(等幅フォントでご覧ください)
======================================================================
内容
======================================================================
1.新たに公開した微生物株(2010年4月1日~2010年5月28日)
2.微生物の保存法(2)
一般的な糸状菌の凍結保存法
3.NITEが解析した微生物ゲノム(2)
Acetobacter pasteurianusとMethanocella paludicola
4.NBRC株の品質管理
5.出展のお知らせ
======================================================================
1.新たに公開した微生物株(2010年4月1日~2010年5月28日)
【詳細】https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/nbrc/new_strain/new_dna.html
======================================================================
糸状菌64株、バクテリア23株を新たに公開しました。
これには両生類の病原菌として知られるカエルツボカビ Batrachochytrium
dendrobatidis NBRC 106979が含まれています。本菌は環境に与える影響を考
慮し、バイオセーフティレベル2相当の取り扱いを行っていただくことを分譲
の条件としています。
======================================================================
2.微生物の保存法(2)
一般的な糸状菌の凍結保存法 (岡根 泉)
======================================================================
今回は、一般的な糸状菌(カビやキノコ)の凍結保存法を紹介いたします。
現在NBRCからは約8,000株の糸状菌が提供可能となっております。その約6割は
胞子形成が不十分のため、凍結乾燥法やL-乾燥法が適用できず、下記の凍結保
存法によって主に菌糸体を保存しております。本法は、凍結傷害を起こしやす
い鞭毛菌類や菌根性の担子菌類には不適当な場合もありますが、多くの糸状菌
に適用できる簡便な方法です。
-20℃から-70℃付近の温度域では、氷の結晶が変化することがあり、保存菌
株の生存に影響を与える場合があります。そのため、長期保存には-80℃以下
で凍結することが好ましいとされております。
ここでは保護培地として10%グリセロールを紹介しますが、さらに5%トレハ
ロース(w/v)を加えることで凍結傷害を起こしやすい菌株の保存性が向上す
る場合があります。現在、NBRCの糸状菌凍結保存株については、トレハロース
入りのグリセロール保護培地を採用しています。
|
◇ 凍結保存法
必要な物:菌体を打ち抜くための滅
菌済みストロー、保護培地を入れた
凍結保存用チューブ
|
|
(1) シャーレに培養した菌体を、
オートクレーブ滅菌したポリプ
ロピレン製ストロー(直径8 mm)
で寒天培地ごと打ち抜きます
(コルクボーラーでも可能)。
胞子や菌核が形成されていれば、
それらも含んで打ち抜くように
すると保存性の向上が期待され
ます。
|
|
(2) 保護培地(10%グリセロール
水溶液1 ml)の入ったオートク
レーブ滅菌済み凍結保存用
チューブ(容量2 ml)に、打ち
抜いた菌体ディスクを適当な数
(2-5枚)入れます。
(3) 5℃前後の低温下に30分から一
昼夜ほど置いた後、ディープフ
リーザー(-80℃)または液体
窒素タンクに入れて凍結します。
|
◇ 凍結保存品の復元法
(1) ウォーターバス(30℃/3分間、液体窒素凍結品では5分間)にて急速解凍
します。
(2) チューブ内の菌体ディスクを取り出し、斜面や平板培地に接種します。
このとき菌体ディスクは崩さないようにします。
菌株によっては凍結融解を繰り返すことによりにより死滅する場合がありま
す。一度に複数の凍結標品を作製し、解凍したものは使い捨てにすることをお
すすめします。
======================================================================
3.NITEが解析した微生物ゲノム(2)
Acetobacter pasteurianusとMethanocella paludicola (中澤秀和)
【詳細】http://www.bio.nite.go.jp/dogan/top
======================================================================
◇ Acetobacter pasteurianus IFO 3283 (= NBRC 3283)
この菌株は高い酢酸生産能力と耐酸性を備えた酢酸菌で、多くの研究実績が
あります。1954年に日本の伝統的な静置発酵法による食酢醸造現場において、
米酢もろみ上の発酵菌膜から分離され、その後、発酵研究所(IFO)そして
NBRCで維持されてきています。長年にわたる継代培養により、表現型が異なる
コロニーが混在することから、ゲノム配列にもバリエーションの存在が推察さ
れていました。
ゲノム解析の結果、2.9 Mbあまりの環状染色体と6個のプラスミドからなる
ことが確認できました。さらに配列のバリエーションとして、トランスポゾン
の挿入の有無、SNPs、そしてタンデム配列の繰り返し数の違いが見つかり、少
なくとも7種類のゲノム配列が存在することが確認されました。継代によって
もたらされたゲノム配列の不安定性を示す興味深い例と言えます。
ゲノム解析に使用したIFO 3283 (= NBRC 3283)と、この株から新たにコロニ
ー分離を行ってゲノム配列をそれぞれ確定した菌株(NBRC 105184~105190の
7株)をNBRCから提供しています。また最もオリジナルの配列に近いと推定さ
れたNBRC 105190のゲノム情報を、2009年10月にDOGANデータベースより公開し
ました。
【文献】Nucleic Acids Res. 37:5768-5783.(2009)
◇ Methanocella paludicola SANAE (= NBRC 101707)
この菌株は水素・二酸化炭素からメタン生成する中温性アーキアの一種で、
水田由来メタンの主な生産者であるとされています。メタノセラ属はRice
Cluster I (RC-I)と呼ばれるグループに属するアーキアで、水田土壌由来遺伝
子からその存在は確認されていましたが、長年の間分離されませんでした。本
菌株は2007年に酒井らにより初めて単離されました。
ゲノム解析の結果より、2.96 Mbの環状構造をとることが明らかになり、
3,004個の遺伝子が予測され、メタン生成をおこなう遺伝子群も揃っているこ
とが確認されました。水田におけるメタン生成機構のメカニズムが明らかにな
ることが期待されます。この菌株のゲノム情報は2010年1月に公開しました。
【文献】Int. J. Syst. Microbiol. 58:929-936.(2008)
======================================================================
4.NBRC株の品質管理 (中川恭好、藤田克利、関口弘志)
======================================================================
NBRC株の品質管理方法をご紹介します。
(1) 生残性の確認
L-乾燥標品:加速保存試験を行って長期生残性を確認しています。細菌では
標品を37℃で2週間、酵母・カビでは4週間保管した後に、生残菌数を測定し、
1,000 CFU/アンプル以上(ファージでは10,000 PFU)あれば合格とします。
加速保存試験後の生残菌数は、5℃で20年間保存した後の生残菌数とほぼ一致
することが報告されています。
凍結保存標品:凍結後半日から1週間経過後に標品を復元し、生残が確認さ
れたものを合格としています。
(2) 純度の確認
細菌・アーキア・カビ・酵母:標品の1本を平板培地などで培養してコロニ
ー形状の観察や菌細胞の顕微鏡観察を行って、雑菌が混入していないことを確
認します。Bacillus属などでは、コロニー変異がよく生じます。形状が異なる
コロニーが認められた場合では、特定の遺伝子の塩基配列(後述)の決定や
RAPD(Random amplified polymorphic DNA)法により、雑菌の混入か否かを確
認します。また偏性嫌気性細菌や独立栄養細菌などでは、一般的な培養条件で
培養し、雑菌が生育しないことを確認します。
藻類:ほとんどの株を継代培養で維持しているため、継代ごとに株の状態
(汚染や生育不良など)を確認しています。継代で維持している株を提供する
際は、顕微鏡観察を行って確認した後、発送します。
ファージ:標品の1本を平板重層法で培養してプラークを確認し、宿主を培
養する平板培地にて宿主菌が混入していないことを確認しています。
(3) 特定の遺伝子の塩基配列決定による学名の確認と配列の公開
細菌・アーキア・カビ・酵母:標品を作製するたびに、細菌・アーキアでは
SSU rRNA遺伝子など、酵母ではLSU rRNA遺伝子D1/D2領域など、カビではD1/D2
領域やITS領域などの配列を決定して、学名確認を行っています。さらにNBRC
がIFOから引き継いだ菌株についても、これらの配列を決定して学名の確認を
行っているところです。
藻類:NBRCが独自に収集した株だけでなく、海洋バイオテクノロジー研究所
(MBI)から引き継いだ菌株についても、SSU rRNA塩基配列を決定して学名の
確認を行っているところです。
ファージ:ゲノム配列が解析されている株では、特異的プライマーを用いた
確認を行っています。未解析の株については、NBRCでゲノム解析を行う予定で
す。
(4) 配列の公開
品質管理のために、NBRCが独自に決定したこれらの配列は、ホームページの
オンラインカタログで公開しており、ご利用いただくことができます。
【URL】https://www.nite.go.jp/nbrc/catalogue/NBRCDispSearchServlet?lang=jp
======================================================================
5.出展のお知らせ
======================================================================
NITEバイオテクノロジー本部は、以下の展示会に出展いたします。皆様のお
越しを心よりお待ちいたしております。
第9回国際バイオEXPO
日程:平成22年6月30日(水)~7月2日(金)10:00~18:00 (2日は17:00まで)
場所:東京ビッグサイト 西ホール
======================================================================
編集後記
======================================================================
最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。次号は、連載
「微生物の培養法」と「アジアの微生物」の第2回を掲載する予定です。微生
物の保存法や培養法などでお知りになりたい情報など、ご要望がございました
ら、下記の問い合わせ先アドレスまでご連絡下さい。すべてにお応えはできな
いかもしれませんが、NBRCニュースの記事として検討させていただきます。
ホームページ(https://www.nite.go.jp/nbrc/cultures/others/nbrcnews/nbrcnews.html)にて、NBRCニ
ュースのバックナンバーを公開しています。こちらでは解説写真なども掲載し
ております(YN)。
◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆
・このメールマガジンは配信登録いただいたメールアドレスにお送りしており
ます。万が一間違えて配信されておりましたら、お手数ですが、以下のアド
レスにご連絡ください([email protected])。
・受信を中止されたい場合は、以下のアドレスに空メールをお送りください
([email protected])。
・メールマガジンに関するご質問、転載のご要望、配信先メールアドレスの変
更など、メールマガジンについてのお問い合わせは、以下のアドレスにご連
絡ください([email protected])。
・当メールの送信アドレスは送信専用となっており、このメールへの返信には
お応えできませんのでご了承ください。掲載内容は予告なく変更することが
ございます。掲載内容を許可なく複製・転載されることを禁止します。
・偶数月の1日(休日の場合はその翌日)に発行します。第4号は8月2日に発行
予定です。
編集・発行
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)バイオテクノロジー本部
生物遺伝資源部門(NBRC)メールマガジン編集局
◆◇◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆◇◆